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HondaJet・2 MH02 [├雑談]

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ツインリンクもてぎのファンファンラボに中二階があり、ここにホンダがこれまで開発してきたヒコーキ関係が展示されています。

 

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展示物の主役はコレ。実験機「MH02」(N3079N)。

実験用飛行機MH02 主要緒元
6人乗り エンジン:JT15D-1型ターボファンx2基(プラットアンドホイットニー・カナダ社製)
1基あたりの定格出力600kgfに減挌して使用 
オールコンポジット機体。前進翼(前進角12度-1/4翼弦)
全長:11.25m 全幅:11.24m 全高:4.18m 最大離陸重量:3,629kg 
最大速度(推定値):353ノット(654km/h)/9,144m
操縦系:補助翼、昇降陀およひ方向陀にタブを搭載した人力操縦方式、
主翼には前縁スラットおよび後縁トリプルスロッテッドフラップを搭載。
降着装置:引込み式三輪装置。主脚は内向きに、前脚は前方に、それぞれ胴体内に引込まれる。

オイラが初めてこのヒコーキのことを知ったのは、1995年発行の「世界航空機カタログ」という本の中でした。

この本の中ではこの機体の名称がなぜか"UA-5"と紹介されていて、

「機体寸法や性能、搭載エンジンなどの緒元や仕様、コンセプト図、初飛行やフライト・スケジュールは一切公開されていない。また、実用化の予定もないとしている」

と説明されており、初のタキシーテスト時にスクープされたという小さな写真が掲載されていました。

当時はネットでいろいろ検索することもできず、かといってホンダ本社に電話する度胸もなく
(いきなり電話されても困るでしょうけど)、

非常にミステリアスなヒコーキで気になって気になって仕方ありませんでした。

そして今から10年位前、ツインリンクもてぎでこのヒコーキと対面することになったのです。 

当時は確か1Fに展示されていたハズ。

カメラを持っておらずただ眺めるだけだったので、今回改めてお邪魔したのでした。

 

展示されているMH02は自由に操縦席に座って操縦桿を操作し、舵を動かすことができます。

これが大人気。小さなお子様から大きなお友達まで大勢列を作っており、

随分待って人が途切れたところですかさず撮影しました。

後席の窓の形が三角、丸、四角と様々ですが、乗る人が楽しく外を見ることを考えていろいろな形を試したのだそうです。

 

この機体はホンダがジェネラルアビエーションの将来技術研究プログラムの一環として、

独自に設計、開発した実験用小型ビジネスジェット機です。

世界初のオールコンポジット機で、主翼と尾翼の桁、小骨、外板および胴体の肋材や外板等、

すべての構造部材に軽量化に効果のあるカーボン繊維強化エポキシ樹脂を採用しています。

ミシシッピ州立大学(MSU)と共同で組み立てを行い、1993年に初飛行。

性能、操縦安定性、フラッターや失速など170時間に及ぶ様々なフライト・テストを実施した後、

1996年8月に一連のプログラムを終了しました。

 

ところでこの実験機、MH"02"となっていますが、ちゃんと「MH"01"」もあり、

これは既存の単発ターボプロップ機を用いて主翼と尾翼を改造した機体なのだそうです。

今も残っているのかしらん。

 

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コックピット内部。

 

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後席は機器類がギッシリでした。

 

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エンジン:JT15D-1型ターボファンx2基(プラットアンドホイットニー・カナダ社製)。

最初からビジネスジェット機に使用することを前提として開発されたエンジンなのだそうです。

 

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翼上面エンジン配置

少し前の記事 で書きましたが、飛行中は翼が胴体を引っ張り上げるため、翼の付け根には大きな力が掛かります。

翼に重いエンジンを載せると、翼がめくり上がるのを押さえる重石の役目になり、翼付け根の負担を減らす効果があります。

そして、単にエンジンを翼の上に載せるだけでなく、その位置を翼の端の方にすればするほど、

付け根の負担を減らすことができます。

一方、飛行中片方のエンジンが停止してしまうと、機首が停止した側に振れてしまうため、

片肺飛行時の直進安定性のことを考えると、左右のエンジンはできるだけくっついている方が良いことになります。

つまり、主翼付け根負担軽減のためにはエンジンの間隔が広い程良く、直進安定性のためには狭い程良い訳です。

ところでMH02のエンジン配置で左右のエンジンをあまり近づけ過ぎると、

後方の垂直尾翼に排気が当たってしまって、じゅー。という事態に。

オイラが思いつくのはこの程度でしかないのですが、相反する要素をいろいろ考慮してこの位置に落ち着いているのでしょうね。

小さくしか映っていないのですが、上の写真右側、主翼前縁に点々が並んでます。

これで飛び立つ時の翼の上を流れる空気をコントロールする効果をテストしたのだそうです。

 

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低い胴体

ここから先の話も少し前の記事 で書きましたが、ビジネスジェット機は「低翼、リアエンジン方式」というのがお約束の組合せです。

ところがこの実験機、ご覧の通りで高翼、しかも翼の上にエンジンが載っているという、非常に特異な形状です。

揚力を効率よく発生させるためには、翼の上をクリーンにするのがセオリーで、

主翼の上にエンジンを載せたヒコーキというのはほとんど例がありません。

高翼式ですから、数多のヒコーキ設計者はここで、

「エンジンを主翼に取り付けるのなら翼の効率、整備性を考えて当然吊り下げ式だ」と考えるはずです。

この非常に独特な形状に関してこんな説明がありました。

(説明版より) 「乗り降りしやすいドア 自動車感覚で簡単に乗り降りができるように、操縦席の左右にドアがついている。
また胴体の床が低くすることができたのは、高い位置に翼をつけたからなんだ。」

「MH02」が高翼、翼上面エンジン配置にデザインされたいきさつについて、確たることは知らないのですが、この説明にある通り、

まず「乗り降りの利便性ありき」で、「キャビンはできるだけ低く」からデザインが始まったのだとすれば、

MM思想のホンダらしいなぁ、と思いました。

横から見ると、もう限界と言える程胴体位置が低いですね。

着陸時は滑走路にお尻を擦っちゃうような感覚なんじゃないでしょうか。

説明にある通り、翼を上に取りつけ、「足が短い」からこそ可能になった低さで、まるで乗用車に乗り込むような感覚です。

降着装置は飛んでいる時には無用の長物で、できるだけ短い方が軽くて済み、

特にこういう小型機の場合は収容スペースも小さくて済むので非常に都合が良い訳ですが、

着陸時に横風等で機体をロールさせてしまうと、翼やエンジンを滑走路に擦ってしまう危険性があるため、

足の短い機体を操縦するパイロット達は神経を遣うのだそうです。

特にこんなに胴体が低い機体で低翼だと、ほんの少しロールしただけでたちまち翼端を擦ってしまうことになります。

でもこの機体は主翼もエンジンも上にありますから、

足が非常に短いにもかかわらず横風着陸でもそれほど気を遣わなくて済みそうです。

「脚がすごく短いのに横風着陸もオッケーな小型機」ということで、

この意味では、通常のビジネスジェットなら相反するところを美味しいトコ取りしていることになります。

 

エンジンを翼の上に載せた理由として一説には、

「手頃なエンジンが入手できず、大きなエンジンになってしまった。もう主翼の上しか搭載場所が残っていなかった。」

ので、こういう形状になったのだとか。

確かにこんな太いエンジンをこのコンパクトな機体に取り付けようとすると、

通常は胴体尾部に付けるか主翼吊り下げのどちらかになるわけですが、

この重くて大きなエンジンを胴体尾部に付けようとすると、このままでは飛行中の機体前後バランスが大きく崩れてしまいます。

このエンジンは乾燥重量223.5kgなのだそうで、それが2基、そしてエンジン関係の機器類、配線配管、支持部材等諸々含めると、

自重に対する割合はかなりのものになるはず。

次の項目で書きますがこの機体は前進翼なので、ただでさえ主翼取り付け位置が後方に寄っており、

これでエンジンが尾部にあると、やってできないことはないんでしょうが、

前後のバランスを取るために機体形状が大きく変わってしまい、

エンジンを尾部に付けるために払う代償が大き過ぎる気がします。

それではと主翼吊り下げ式にすると、機体前後のバランスは申し分ないのですが、

今度はエンジンが地上ギリギリで、地上に擦ってしまったり、異物吸い込みの心配がありますから、

もっと足を長くて重いものにする必要があり、当然乗り込み位置が高くなってしまいます。

「胴体床を可能な限り低く」、「前進翼採用」というのが絶対条件で、使用エンジンがこれしかないとすると、

主翼とエンジンは多分こういう形状に落ち着くのではないかと思います。

 

前進翼

ほとんどのジェット旅客機の主翼は斜め後方に傾いています。

いわゆる「後退翼」で、いかにも速そうなのですがこの機体は逆で、主翼が前方に12°傾く「前進翼」になってます。

前進翼の特徴は後退翼と同じで衝撃波の発生を遅らせることができ、高速性に優れていること。

特に前進翼としての長所は、機動性が高く、失速特性に優れていること。

短所は構造を非常に丈夫にしないといけないため、重くなってしまうこと。

なぜ丈夫にしないといけないかというと、主翼が揚力を発生させ、翼の先端が少し上にしなったとします。

すると機首が持ち上がり、余計に主翼の先端がめくれ上がる方向に風を受けやすくなり、更にしなります。

するともっと機首が持ち上がり、更に余計に主翼の先端がめくれ上がる方向に風を受けやすくなり、更にしなり…

と、どんどん主翼をねじり壊していく方向に進んでしまいます。

そんなことになってしまうと大変ですから、主翼をしなりに対して非常に強く作らねばなりません。

結果、同じ面積の他の翼と比較して前進翼はうんと重くなってしまうのですが、

カーボン複合材を使うことで実現が可能になったのだそうです。

 

前進翼には空力的に大きなメリットがあるのですが、自分で自分を壊してしまうリスクがあるため、うんと頑丈に作らねばならず、

大型機には不向きなことと重量過多がアダとなり、

日本が第二次大戦中に後縁のみ僅かに前進角を付けた主翼を採用した例がある他、

グライダー、ビジネスジェット機で僅かに実用例があるだけに留まっています。

「高い機動性」という長所から、戦闘機に真っ先に採用されそうな気がするんですが、

戦闘機ではアメリカとロシアで僅かばかりの実験機があるものの、今のところ実用化の話は聞きません。

こうした事例は如何に前進翼が特異なものかを示していると言えるでしょう。

余談ですが、これからの戦闘機には高度のステルス性が求められ、この前進翼はステルス性が非常に悪いため、

今後前進翼の戦闘機が登場することはもうないだろうと言われています。非常に目を引くデザインなんですけどね。

(「前進翼とステルス性能は無関係だ」という意見もあるのですが、高度の機密なので一般人レベルではハッキリしたことは分からないようです。 この件で真相をご存じの方、絶対漏らしませんからオイラだけにコメント欄でこっそり教えてください。【薄謝進呈】)

それはともかく、元々ホンダが作ろうとしたのは、「仕事などで町から町へ飛び回る人のための小型ジェット」。

実験機とはいえ、そこに高翼、前進翼、翼上面エンジン配置という、

通常の小型ジェット機の概念を覆すデザインを採用してしまうというのがいかにもホンダらしい気がします。

 

その他

フラップにはトリプルスロッテッドフラップが奢られています。

主翼は前進翼で前縁スラットも装備しており、可能な限り短距離離着陸性能を向上させたいという意図がうかがえます。

また、この機体は普通に胴体尾部に水平尾翼を取り付けると、エンジン排気が近くて じゅー。となってしまいそうです。

それと、水平尾翼上面を排気が流れることになりますから、本当は下向きの力を発生させないといけないのに、

逆になんか揚力発生しそうです。よくわからないですけど。

そのためこの機は水平尾翼がうんと上方に取り付けられています。

尾翼がこういうT字型の場合、垂直尾翼の面積を小さくすることができるのですが、

この垂直尾翼はやけに大きく、というか高く見えます。

垂直尾翼をうんと高くして、水平尾翼をうんと高い位置にしているのはディープストール対策でしょうか。

それと、垂直尾翼に強い後退角がついているため、水平尾翼が胴体の尾部より後方にあります。

これはモーメントアーム(主翼と水平尾翼の距離)を稼いでピッチ制御を容易にするためなのではないかと思います。

多分ですが。

 

この機体、炭素繊維を樹脂で固めた複合材を使用しています。

1993年に初飛行したのですが、当時の技術としては「オールカーボン複合材の機体」というのは

世界の航空界でも先端技術で、技術的にかなり困難だったのだそうです。

1986年から始まった航空機研究プロジェクトは、

このMH02の1993年~1996年まで実施された各種テスト飛行で一旦終了しました。

この間10年。

自分たちで設計、製作し、実際に飛ばすという経験を通して、航空機開発の手法やプロセスの確立という得難い経験を体得しました。

HondaJetの開発はその翌年からスタートするのですが、

この10年プロジェクトに当初から参加していたメンバーの1人に藤野道格という人物がおり、

この藤野氏が HondaJetの開発責任者になり、10年間の経験を生かして新しい機体のデザインを進めました。

現在は氏がHondaJet機体製造会社の社長になっています。


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コメント 8

OLDMAN

今は機体の中も見られるとは、
知りませんでした。次回近くを通る時は、必ず寄ります。
情報をありがとう~!
by OLDMAN (2012-04-07 07:31) 

せつこ

考えられないところにエンジンを取り付けたのよね^^
受注開始しましたよね、日本の技術は素晴らしい。
なのに、この株価暴落、政治の不安定が原因かしら~~~@@
by せつこ (2012-04-07 10:27) 

me-co

わたくしも4年前にツインリンクもてぎに行き、これを見ました。
じっくり見たかったのですが、確かに大人気で近づくのがやっとでした。
しっかし、現行機とは随分違いますねぇ=納得いくまで作りこむHONDAのスピリットが生きてます。よくぞリーマンショックを乗り越えてココまで来ましたわ。
by me-co (2012-04-07 15:55) 

セバスちゃん

今度、もてぎに行った時にみてこよっと。
前回は、インディー見てアシモ見て帰ってきてしまったのです<笑>
by セバスちゃん (2012-04-07 16:27) 

tooshiba

既存の航空機メーカー(部品メーカーを含む)なら、革新的な視点での取り組みはしにくいかもしれません。
それこそが、本田宗一郎翁から脈々と受け継がれている「やらまいか」スピリットでしょうな。
by tooshiba (2012-04-07 23:18) 

鹿児島のこういち

ホンダジェット機、カッコいいっす!約3億円でしたっけ?(^_^;)ビジネス機として、これは安いのか高いのか、自分はわかりません(^_^;)
前進翼機といえば、スホイ32でしたっけ、それともスホイ47だったかしら(^_^;)翼、頑丈に作ってるんですね(^o^)
by 鹿児島のこういち (2012-04-08 13:06) 

an-kazu

もてぎに行った時ココにも来ましたが、
そうですか、そういうこだわりの機材だったのですねφ(..)メモメモ
by an-kazu (2012-04-08 21:30) 

とり

皆様 コメント、nice! ありがとうございます。m(_ _)m

■OLDMAN様
どういたしまして~m(_ _)m
以前は中見ることが出来なかったのですね。

■せつこさん
ビックリなエンジンの取り付け方ですよね^^
株価の暴落、残念でしたが、ホンダジェットへの影響はそれほどなかったらしいです。

■me-coさん
おお、me-coさんもご覧になりましたか。
ここは休みの日だけ開館なのでどうしても混んじゃうんでしょうね^^;
業績低迷時にホンダジェットの事業化を推進したのだそうです。
無事デリバリーが進んで欲しいです。

■セバスちゃんさん
おお、インディー観戦ですか!
次、お立ち寄りの時は是非ヒコーキも~^^

■tooshibaさん
>既存
確かにそれはあると思います。
ジェットエンジン開発で、その筋では素人同然のある人物のアイディアで一気にブレイクスルーが進んだ箇所があるのですが、
その人物が、「専門家とは、過去の方法を盲従する人たちである」みたいなことを言ってました。

■鹿児島のこういちさん
カッコいいですね~^^
超円高が進んだので価格はその位だと思います。
他のビジネスジェットと比べると少々お高いのですが、ホンダ曰く、
キャビンスペースと性能は一クラス上なので、お得なのだそうです。
まあ庶民には十分お高いですね^^;

■an-kazuさん
おお、an-kazuさんも行かれましたか。
ヒコーキは設計者の意図が形に出やすいので面白いです^^
by とり (2012-04-09 06:15) 

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