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ヒコーキの前後バランスの話 [├雑談]

ヒコーキは主翼の前が重過ぎても後ろが重過ぎてもよくありません。

これはヒコーキの模型で考えるとイメージし易いです。

主翼がヒコーキを持ち上げるわけなので、同じように模型ヒコーキの主翼部分を持ち上げてみます。

ちょっとでも前が重かったり軽かったりすると、たちまち機首が上を向いたり下を向いたりしてしまいます。

実際のヒコーキも全く同様で、

主翼のところにきちんと重心がくるようにしないとバランスがとれなくて大変なことになってしまいます。

 

エンジン取り付け位置

ここにエンジン無しで前後のバランスが取れているヒコーキがあるとします。

このヒコーキにエンジン(すごく重い)を取り付けるとして、

主翼に取り付ける場合はバランスを大きく崩すことはないのですが、

ではMD-90などのように胴体後部につけるとどうなるでしょう。

後ろが非常に重くなってしまいますから、たちまち機首が上を向いてしまいます。

どうすればよいでしょう?

主翼の取り付け位置を後ろにずらしてやれば、バランスをとることができます。

MD-90等のリアエンジン機は胴体の真ん中よりも後ろに主翼がついているのが見た目でもハッキリ分かります。

 

737.pngmd90.png

B737とMD-90

B737の主翼がおおよそまん中らへんに付いているのに対し、MD-90は主翼より前の部分がかなり長くなってます。

こうやって前後のバランスを取っているわけですね。

 

水平尾翼 

設計段階で前後バランスがとれるようにきちんと計算しているわけですが、

では主翼が発生する揚力の中心位置と重心位置はピッタリ一致しているかというと、実は少しずれていて、

重心は少しだけ前にあります。つまり主翼でヒコーキを持ち上げると、前が重いです。

重心が前にあると飛行中の安定性が増すから。というのがその理由です。

でもそのままでは機首が下がってしまうので、水平尾翼で下向きの力を発生させて機首が下がるのを防いでいます。

せっかく主翼が揚力を発生させているのに、水平尾翼は逆のことをしているわけですから、

揚力の一部を打ち消してしてしまうことになり、非常に勿体ないです。

ということで、主翼は機体全体の重さの分の揚力だけでなく、

尾翼によって失われる分も余計に発生させなければならないのですが、

ピッチングのバランスを取るためですから致し方ありません。

重心位置がかなり前にあると、水平尾翼が発生させる下向きの力もかなり強くしなければならず、

見かけの重量が増えてしまい、主翼はその分余計に揚力を発生させなければなりません。

つまり、燃費が悪くなってしまいます。

 

飛行中の安定性をよくする為に重心を前に持って来ないといけない。

でもそのままだと機首が下がってしまうので、水平尾翼で機首を持ち上げてやる。

ということなのですが、水平尾翼を機首の方に持って来た「先尾翼機(カナード機)」というタイプもあります。

「安定性確保の為に重心を前に持って来ないといけない。でもそのままだと機首が下がってしまうので」

先尾翼機でもここまでの基本は同じなのですが、機首を持ち上げるための翼が機首についているので、

尾翼に付いている時とは逆で、上向きの力を発生させればよいことになります。

主翼の揚力を一部無駄にしてしまうどころか、更に揚力をプラスすることになり、無駄がありません。

先尾翼にはデメリットも多いのですが、

ロスを極限まで減らす必要がある人力飛行機にこの方式を採用するチームがあるのはこのためです。

 

ペイロード搭載

せっかく設計段階ではきちんと前後のバランスが取れている旅客機でも、

乗客や貨物(ペイロード)の積み方が前後どちらかに偏っていると、これまたバランスを崩してしまいます。

それで極力前後のバランスがとれるような積み方をします。

こうした傾向は小型機ほどシビアで、アイランダー(10人乗りのレシプロ機)など、

乗る前に手荷物を持った状態で体重計に乗せられ、その後席順が決められます。

最終的に操縦士に前後のバランスについての情報が送られ、それに基づいて水平尾翼の取り付け角を微調整し、

水平尾翼にどれだけ下向きの力を発生させるか決め、機首が傾いてしまうのを防いでいます。

ところで一部の旅客機は水平尾翼内にも燃料タンクを設けています。

これは単純に燃料搭載量が増えるから、ということもあるのですが、

この燃料をトリムにして、重心位置の調整に活用しています。

こうやってトリム調整で重心位置を最適化することができれば、水平尾翼が大きな下向きの力を発生させずに済み、

それだけ見かけの重量が減り、燃費が向上します。

 

燃料搭載

旅客機は(主に)主翼内に燃料を積んでいますが、飛行ごとに搭載する燃料の量はマチマチですし、


飛んでいる最中にどんどん消費して軽くなります。

一例ですがジャンボの場合、燃料を173t搭載することができるのですが、この重さは最大離陸重量の4割強にも達します。

これだけ全体に占める割合の非常に大きなものが、着陸時にはかなり消費されてしまうのですから、

燃料タンクが機体前方とか後方にあると、もう大変なことになってしまうことでしょう。

燃料消費に合わせて乗客全員の座席移動が必要になるかもしれません。

それで、「燃料は重心位置のある主翼の中に入れる」というのはバランス面で非常に理にかなったことと言えます。

おかげで乗客は着陸まで席替えをすることなく、同じ席でゆっくり座っていることができます。

さて。重心位置にある主翼に燃料を入れるわけですが、燃料の量がどれだけ変化しても、

重心位置はまったく変化しない。というわけではなく、燃料の消費に伴って重心位置は少しずつ移動します。

では燃料消費に伴って、重心位置が前後どっちに移動した方が燃費が良くなるでしょう?

良かったら考えてみてください。

 

MD-81、MD-90の話

ところで。

オイラは今までずっと、乗客、貨物、燃料を積み込む前の状態のヒコーキは、

前後バランスがキチンととれているものだと思い込んでいたんですね。

それでここまでそれを前提に話を進め、

「リアエンジン機は主翼を後ろにずらすことで前後バランスを保っている」とか書きました。

以前空港に勤務していた方と親しくさせて頂いているのですが、この件で先日話を伺うことができました。

なんとMD-81、MD-90は素の状態(という表現でいいのか知りませんが)で前後バランスがとれておらず、

重たいエンジンを後方に取り付けているため、重量バランスが後方に偏っており、

フェリーフライトの時は、運航バラスト(鉛の帯のようなもの)を前方貨物室に500kg近く搭載しないと飛ばせないのだそうです。

また、ご搭乗客が少ない時、座席は空いているのに変に客室の前のほうにまとまってアサインする。

というのも、バランスの関係なのだそうです。

主翼をかなり後ろにつけてますが、実はあれでもまだちょっと足りなかったのですね。

台風時にはリアが重くて風にあおられ機首が浮くことがあるため、前方の貨物室や客室にバラストを2トン近く積んだり、

燃料を満載して対応しているのだそうです。

バラストを貨物室のみに搭載した場合、床面強度のリミットを越えてしまうため、客室にも搭載するのだそうです。

MD機って、前後のバランスに非常に気を遣って運用しているのですね。

とても生々しい話を伺うことができました。

 

揺れの中心点

最後に。

機首の上下(ピッチング)、左右(ヨーイング)方向の揺れの中心点はどこにあると思いますか?

ここまでの話の流れだと、主翼のところにあるような気がしますよね?

ところが実際には飛行中の上下、左右の揺れの中心点は機首の更に前方にあるのだそうです。

それで、コックピットで僅かな揺れだとしても、

大型旅客機の胴体後部ではかなりの揺れを感じることになってしまうため、

ベルトサイン点灯のタイミングに注意が必要なのだそうです。

やっぱりファーストクラスが最前部なのは理にかなってますね。

食器類にもお金かかってそうですし。


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