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HondaJet・4 OTWEM [├雑談]

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HondaJet・2 MH02    
HondaJet・3 エンジン開発    
HondaJet・5 翼型  
HondaJet・6 機体の特徴など   


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OTWEM

(HondaJet 説明版より)
「独走の空力設計 『翼の上には何もおかない』これがこれまでの航空機空力設計の常識です。翼の上の空気が早く流れることで圧力が下がり揚力が生まれるので、翼の上はクリーンに保つのが普通です。HondaJetはこのタブーに挑み、エンジンを主翼上面の最適位置に配備する新規開発の革新的なレイアウトを採用。エンジンが全くない場合よりも高速飛行時に空気抵抗が小さくなる"スイートスポット"を発見しました。これによって胴体内スペースを客室や荷物室として有効に活用することができました。」

HondaJet で最も目につく特徴と言えば、何といっても主翼の上にエンジンを載せた独特の形状でしょう。

オイラの知る限り、「ビジネスジェット機は低翼、リアエンジン」という定番中の定番を崩した初めての機体です。

ホンダは主翼の上にエンジンを載せた方式のことを、"OTWEM"(Over-the-Wing-Engine-Mount)と呼んでいて、

公式サイト内では、「主翼上面エンジン配置」と説明しています。

冒頭の説明版にある通り、翼の上にエンジンを配置すると空気抵抗が増加し、

高速飛行時の空力特性が悪化するため、この方式は本来タブーとされています。

そのためこれまで主翼の上にエンジンを配置したヒコーキはほとんど存在しなかったのですが、

ホンダはそんなタブーに敢えて挑戦し、翼の上にエンジンが乗っかっているテストモデル製作し、

ボーイングとNASAに持ち込んで風洞実験をしました。

モデルを目にしたボーイングの社員からは失笑が漏れたのだそうです。

しかし実はこの形状、「ダメ元でとにかくデータを取ってみよう」というものではなく、

コンピュータ・シミュレーションを繰り返し、

翼の上にエンジンを配置する際の最適位置をいろいろ試した結果の形でした。

風洞実験でテストモデル機は期待通りの性能を示し、データを目にしたボーイング社員たちからは笑いが失せのだとか。

M.70~.77では翼の下にエンジンがあるタイプより抵抗が減っており、

M.77~.84では胴体と翼だけの状態よりさらに造波抵抗が減少していたのだそうです。

翼の下にエンジンがあるより優れているとか、エンジンがない状態より抵抗が少ないとか、まるでウソのような話です。

 

この「主翼の上にエンジンを載せる」という発想は、

HondaJetの開発責任者が学生の時に一度読んだ空力に関する教科書を偶然読み返したのがきっかけなのだそうです。

学生当時は当たり前だと思ったことが、見方を変えると流れを組み合わせてベストの流れを作ればいいんじゃないか。

と考えが変わりました。

ここから、主翼まわりの空気の流れと、エンジンまわりの空気の流れをうまく組み合わせれば、

高速飛行時の空力特性を悪化させない圧力分布が可能ではないかと考えました。

この考えに沿ってコンピュータ・シミュレーションを何度も繰り返すうち、

主翼上面の最適位置にエンジンを搭載すれば、高速飛行時の空力特性を悪化させず、

むしろ向上させる可能性があることをことを発見。

最終的に最新鋭のCFD(数値流体計算シミュレーション)でコンセプトを固めた後、

理論の正しさを実証するためにボーイングとNASAの風洞試験場にテストモデルを持ち込んだのでした。

 

某サイトでこの「主翼の上にエンジンを載せる」という発想を、「船のバルバス・バウ」に例えていました。

バルバス・バウとは喫水線の下にある船首の球状部分です。

これ単体で見ると、ただ抵抗となる波を発生させるだけの余計なものなのですが、

これが作る波と、船首が作る波の山と谷が丁度逆になり、互いを打ち消し合うため、全体としては抵抗が少なくなります。

HondaJetのエンジン配置もこれと似ていていると思います。

 

こうして見事理論の正しさを風洞実験データで実証することができたのですが、

それでもこの「主翼の上にエンジンを置く」というデザインは社内で理解を得ることが困難でした。

そのため、アメリカの航空学会で評価をもらうことに。

技術論文をアメリカの航空学会に発表したところ、アメリカ航空機設計委員会はこの方式を高く評価。

「飛行機設計における重大な発見のひとつである」と論評され、

飛行機設計の専門誌「AIAAジャーナル・オブ・エアクラフト」に論文が掲載されました。

こうして無事、HondaJetはあの独特な外観で我々の目の前に現れることになったのです。

 

「空力的に最適の場所」としてエンジン取り付け位置が決定しているため、これは結果論なのですが、

エンジンは主翼のかなり後方に位置しています。

三面図で見ると、胴体後部にエンジンを取りつけている他のビジネスジェットとあまり変わらない位、「胴体後方」に位置しています。

ですから、「主翼の上にエンジンが載っている」とはいうものの、

「窓の外には、視界いっぱいに素敵なエンジンが」。

ということには、あまりなっていないはずです。多分。

 

「主翼の上にジェットエンジン」というのは、決して HondaJet が初めてという訳ではなく、

「STOL実験機飛鳥」がそうでしたし、ドイツの「VFW 614」という1971年に初飛行した小型旅客機もそうでした。

奇しくもホンダが開発した実験機、「MH02」もそうです。

飛鳥は文字通りSTOL実験に特化したエンジン配置だったので別として、

ドイツのVFW 614やMH02 はエンジンを主翼の上に置くことで、

胴体を軽量化できる、エンジンFOD対策、主脚を短くできる等のメリットを得ました。

ただしこれは、「翼の上にエンジン」というタブーを犯して空力上のデメリットをまともに受け取ったのと引き換えに

幾らかのメリットを得た。という性格の設計です。

ですから外見上の特徴としては同じ「主翼の上にエンジンを配置する」という形態なのですが、

両者の設計思想は次元を異にしているということになります。

OTWEMは、「高速飛行中の造波抵抗を減らし、燃料効率を向上させる効果がある」

ということで特許技術になっています。 

空力的なデメリットを受けることなく低翼でエンジンを主翼に持ってくることに成功した

HondaJet が享受したメリットとその性能等についてはまた後の記事で。


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