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HondaJet・6 機体の特徴など [├雑談]

HondaJet・1 年表    
HondaJet・2 MH02    
HondaJet・3 エンジン開発    
HondaJet・4 OTWEM     
HondaJet・5 翼型  


機体の材質と構造

HondaJet の胴体は787でも採用された炭素繊維強化樹脂(CFRP)製です。

各部を成形した後、全体を組み合わせてオートクレープ(内部を高温高圧にできる大型炉)で硬化させると、

軽くて強い胴体が完成します。

で、胴体の材質は炭素繊維強化樹脂(CFRP)製なのですが、

その胴体を形作る構造は二つの種類が採用されています。

ハニカム材を間に挟んだハニカム・サンドイッチ・パネル構造と、

フレームにスキンを取り付けたスティフンド・パネル構造です。

HondaJet・5 で書きましたが、HondaJet は機首部分の形状が自然層流設計になっており、

これにより胴体全体の有害抵抗が10%ほど少なくなっているのだそうです。

自然層流は摩擦抵抗を低減できるのはいいのですが、

機首に沿って流れる気流が開発者の意図通りきちんと層流を維持するようになるには、

緻密な計算に基づいた非常に精度の高い工作が要求されます。

ハニカム・サンドイッチ・パネル構造は三次元形状に適しているため、まさにうってつけです。

反面、重くなりやすく、音の反響が強いのが短所。

そのためHondaJetでは、三次元表面形状が特に重要な機体の前部と後部にこの構造を採用しています。

 

一方、スティフンド・パネル構造は、機体の前後方向に伸びるストリンガと円環状のフレーム、外版から成る構造のことで、

ヒコーキの胴体に広く採用されている構造です。

この構造は単調な形状に向いており、軽く作ることができるのが長所です。

HondaJet では胴体中央部にこの構造を採用しています。

胴体を全複合材製にしたことにより、

同じものをアルミ合金で製造するよりも10~15%の重量軽減になったと推定されるのだそうです。

 

"元祖HondaJet"であるMH02は、787と同じく胴体も主翼もCFRP製なのが大きな特徴だったのですが、

HondaJet ではCFRPの使用は胴体部分だけに留め、主翼はアルミニウム合金を使用しています。

これはコストと軽量化効果のバランスを考えての選択なのだそうです。

 

機内の特徴

ここまで一連の記事で何度か触れましたが、ビジネスジェットは胴体後部にエンジンを取り付けています。

この場合、エンジン支持構造が胴体後部を貫き、

胴体の後部1/3はエンジンを保持、作動させるメカ等で埋め尽くされてしまうのですが、

HondaJet はエンジンを胴体後部から主翼上に移動したため、胴体の使い勝手が飛躍的に向上しました。

しばしば"ハチドリ"と例えられるそのイメージとは逆にキャビンは同クラス機と比べて非常に広くなっており、

胴体後部の空いた分をキャビン、トイレ、荷物室など様々な用途に活用できます。

例えば、このクラスの対座シートでは足元が向かい側の人と重なるのが普通なのですが、

HondaJet は充分な広さを確保できたため互いの足が重なりません。

また通常のビジネスジェットでは、トイレはカーテンで仕切っただけの緊急用のものが多く、

「ビジネス機を利用する時は事前にトイレを済ませておくこと」が常識なのだそうです。

HondaJetでは、きちんと個室の化粧室を設置することができました。

実際に乗った方の感想も、まず「広い!」というものなのだそうです。

機内に入った瞬間「わあ広い!」と言えば、普段プライベート機に乗り慣れてる風を装えますね(o ̄∇ ̄o)

内装は2つのバリエーションがあり、操縦室2席+キャビン5席の7人乗りの標準仕様と、

操縦室2席+キャビン6席のエアタクシー向けの8人乗り仕様があります。

 

ビジネスジェットでは、様々な装置を装着した後に荷物室を設計するのが一般的で、

結果として小さなカーゴスペースが数か所あるという恰好になり、大きな荷物は搭載できないことも多いのですが、

HondaJet は1か所に大きな荷物室を設ける事が出来ます。

米国ではプライベートジェットをビジネス以外では遠くのゴルフ場に行く際に利用することが多く、

「ゴルフジェット」と呼ばれることもあることから、「6個の大型ゴルフバッグを積めること」を設計要件にしたのだそうです。

後部荷室は57キュービックフィート(約1,614L)の容積があり、

ノーズ部にも9キュービックフィート(約255L)の荷物スペースがあります。

 

仕様

前述の通り、ビジネスジェットでは胴体後部に付いているのが当然のエンジンがHondaJet にはありません。

これにより胴体の1/3を占めていたメカメカしいものとエンジンの分、胴体が軽くなりました。

これは胴体を持ち上げる主翼付け根の負担軽減につながります。

HondaJet は重いエンジンを主翼の上に載せたわけですが、これは飛行中主翼がめくれ上がるのを防ぐ重石となります。

通常のビジネスジェットと異なり、胴体が非常に軽くなったこと、主翼にエンジンを載せたこと、

これらが相まって主翼付け根の負担が大幅に軽減され、その分構造の軽量化を実現しました。

 

エンジンは主翼の下ではなく上にありますから、地上高を抑えることができ、脚を短く、軽くすることができました。

地上高が低いため、乗り降りも容易です。

また、「主翼の上にエンジン」というのは通常空力上のデメリットが出るのですが、

最適位置に配置する"OTWEM"方式により却ってメリットを生み出すことができました。

「低翼、エンジンは主翼の上」というのは、まさに美味しいトコ取りのレイアウトです。

 

抵抗と重量の低減を実現した複合材製胴体、摩擦抵抗の少ない層流設計(SHM-1)、

燃費に優れたGE Honda製ターボファンエンジンの搭載等、

こうした数々のHonda独自開発のアイディアが詰まった機体は、同クラスの中で秀でた性能を有するものとなりました。

性能やキャビンのサイズは上のカテゴリーを実現したのが大きな特徴で、

最高速度420ノット(約778km/h、このクラスでは700km/h以下が普通)

最大運用高度4万3千フィート(13,106m)

同クラスの機体よりもスポーティーで俊敏な操縦性能を実現

燃料タンクは主翼の中と胴体下にあって、搭載量は1,040kg。

航続距離は1,180ノーティカルマイル(約2,185km)で、燃費は他の小型ジェット機より30~35%優れています。

操縦系は最新のガーミン社製で、複数の情報を集中表示する高解像度平面デジタルディスプレイを採用しています。

こうした数々の特徴をもつHondaJetは、2006年10月にフロリダ州で開催された航空ショーで受注開始。

3日間で100件を越す受注を獲得し、「まるでパンケーキのように売れていく」と評されました。

 

今後もHondaJet 関連の記事を書くことはあると思いますが、シリーズ記事はこの記事で終わりです。

HondaJetは2012年5月4日には量産型4号機が初飛行に成功し、

現在のところ2013年中のデリバリーを目指しています。

 

最後にHondaJet のエンジン開発に当初から携わってきた藁谷氏の言葉をご紹介致します。

「今までを振り返ると、多くの失敗もありましたが、やはり自分たちが自らの手で作ってきたという誇りがあります。

Hondaには「松明は自分の手で」という言葉がありますが、正に自らの手で率先してやることが大事だと思います。

何かの基準を決めるときでも、最初にやった人には、何故そのような基準を決めたかが分かっており、

問題が発生しても柔軟に対応することが出来る訳ですが、その基準のみを頑なに守ろうとする次の人には、

必要に応じて基準を変更することがままならなくなってしまうこともあるのです。」


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